しっかり寝ているはずなのに眠気がとれず、疲労感が残ってしまうという経験はありませんか?
質の高い睡眠をとることは、目が覚めている時間を効率良く、健康的に過ごすうえで重視すべきポイントです。この記事では、生活習慣や寝室環境に着目し、自分でできる睡眠の質を高めるための具体的な方法と睡眠の質が低下する主な原因を解説します。今すぐ取り組める方法も紹介するため、睡眠の質を改善したい方はぜひ参考にしてください。
質の高い睡眠とは?
質の高い睡眠のポイントは、大きく2つあります。「適切な臥床(がしょう)時間を確保できている」こと、「毎日規則正しく決まった時間に眠っている」ことです。臥床時間とは、ベッドで横になっている時間のことで、実際には眠っていない時間も含みます。
この2つのポイントは、それぞれ単独ではなく相互に作用しています。 また、厚生労働省の資料(※)から考えられる成人(若年成人から壮年期まで)の質の良い睡眠をとれているかどうかの目安は、以下のとおりです。
昼と夜のメリハリが明瞭である必要な睡眠時間が確保され、日中に過度な眠気や居眠りが生じない日中の心身の状態が、自分の生活スタイルにとって適切な状態である睡眠が安定している(睡眠時間の前半に深い眠りがとれていて、後半にも中途覚醒が少ない)寝つきが良い(入眠までの時間が気にならない程度の長さである)寝起きがすっきりしていて、目が覚めてからスムーズに行動できる自分の睡眠について満足している過度な疲労感がなく意欲的である
(※)参考:厚生労働省 第3章 より健康的な睡眠を確保するための生活術
適切な臥床(がしょう)時間を確保できている
睡眠時間は短すぎても長すぎても良くありません。適切な睡眠時間は年齢により異なり、さらに個人差があります。睡眠時間の長さは人それぞれですが、その人にとっての睡眠時間が短すぎると、どんなに質の高い睡眠が取れていても睡眠不足になります。
一方で長すぎる睡眠時間は、眠りが浅くなり中途覚醒が増えるなど、睡眠の質が悪化することが知られています。
長期間にわたって蓄積した睡眠不足を「睡眠負債」と呼びます。睡眠負債は心身に悪影響を生じることが知られています。
具体的には、メンタル面で抑うつ気分やうつ病の発症リスクが増加するほか、身体的には肥満になりやすくなり、生活習慣病や心血管疾患(脳梗塞や心筋梗塞、狭心症など)のリスクが増加します。
日本は世界的に見て国民の平均睡眠時間が短く、睡眠不足が多いことで有名です。
毎日規則正しく決まった時間に眠っている
私たちは昼間に活動し、夜に眠るという昼行性動物としての時計(体内時計)を生まれつき持っています。
交替勤務や不規則な夜更かしなどの影響で毎日の睡眠時間帯がバラバラになると、体内時計が時差ボケを起こしてしまい、「眠りたい時間に目が冴えて寝つきが悪くなる」「中途覚醒が増えてしまう」といったように、質の高い睡眠がとれなくなります。
また日中活発に活動したい時間帯に倦怠感や眠気、頭痛や食欲不振などの症状がでてしまう原因にもなります。
不規則な夜更かしは避けるように心がけましょう。
例えば、夜勤明けの日中は15時までに仮眠をとる程度にとどめて、出来るだけ夜の普段に近い睡眠時間帯にまとめて長時間眠るように工夫するなど、睡眠時間帯の乱れを最小限にするよう工夫をしてみましょう。
睡眠の質を上げる方法【生活習慣】
体を睡眠に適した状態に整えて睡眠の質を高めるために、日常生活の中で取り組めることはたくさんあります。
就寝3時間前までに夕食を済ませるアルコールは就寝2時間前、カフェインは就寝4~6時間前から控える温かい飲み物で体温を上昇させる就寝前の入浴は湯温38~40℃程度で20~30分間にする適度な運動をする長すぎる昼寝や夕方以降の仮眠・寝落ちを避ける就寝前に電子機器を操作しない起床後はすぐに日光を浴びるそれぞれ詳しく紹介するので、睡眠の質を高めたいと考えている方は、ぜひ生活の中で実践してください。
就寝3時間前までに夕飯を摂る
夕食や夜食など寝る前の食事は、就寝の3時間前までに済ませましょう。内臓にとって食べ物を消化する活動は重労働です。就寝時には、消化活動が終わり内臓も休める状態にしておきましょう。
そして、消化活動が終了した状態で眠れるよう、就寝時間から逆算して食事を摂る時間を決めてください。また、就寝前に食事を済ませる場合には、できるだけ消化の良い食事を心がけましょう。
アルコールは就寝2時間前、カフェインは就寝4~6時間前から控える
アルコールを「寝酒」として、普段から就寝前に摂取している方もいるかもしれません。
アルコールは入眠を促す作用がありますが、一方で入眠後の睡眠は浅くなってしまいます。「飲酒した翌朝に寝ていた割には起床時の熟睡感がない」「疲れがとれていない」と感じた経験がある方もいるかもしれません。
アルコールには依存性があります。上手に眠れないという理由から寝酒が習慣化する場合には、依存性のほとんどない睡眠薬や薬剤を使わない不眠対策もあるので、睡眠外来を受診し相談しましょう。
また、カフェインは覚醒作用があるため、寝つきが悪くなる原因となったり、入眠後の睡眠を浅くさせたりします。カフェインを含むコーヒーや緑茶、エナジードリンク、栄養ドリンクは、就寝前4〜6時間の飲用を避けるように心がけましょう。
また、アルコールとカフェインはともに利尿作用があるため、トイレによる中途覚醒が増える原因にもなります。
温かい飲み物で体温を上昇させる
入眠には体温の変動も影響します。眠気は体温が1℃程度低下したタイミングで促されます。そのため、就寝前に温かい飲み物を飲んで体温をコントロールすることは、睡眠に入るため方法として役立つ可能性があります。
体を温めるおすすめの飲み物には、下記のようなものがあります。
飲み物特徴白湯胃に負担をかけず体を温めることができる生姜湯生姜に体を温める効果があるハーブティー香りが良く、心身をリラックスさせてくれるカフェインレスや無糖のものを選んで就寝前に飲むと良いでしょう。
なお、就寝間に飲んだほうが良い飲み物、避けるべき飲み物については、下記の記事でも詳しく解説しています。ぜひご一読ください。
就寝前の入浴は湯温38~41℃程度で20~30分間にする
前述のとおり、体温が1℃ほど下がり始めたタイミングで自然な眠気が促されるため、就寝前の入浴は温度や時間にも気を付けましょう。
さらに、入浴には、体の疲れを癒すリラックス効果もあります。好みの色や香りの入浴剤を使用すると、心身ともにリフレッシュできるでしょう。
心拍数が上がるような高い湯温での入浴は、交感神経系(覚醒を促す方向の自律神経)の活動を促すため、かえって目が冴えてしまいます。
就寝前のお風呂の湯温は38~41℃が目安といわれますが寒すぎない程度でぬるめの湯温で入浴するよう心がけてください。
適度な運動をする
私たちには、夜になったら眠るという昼行性動物としての体内時計の仕組みのほかに、「疲れたら眠る」という睡眠のための仕組みがあります。脳だけではなく、体の疲れも溜まっていたほうが睡眠の質が良くなります。日中に散歩やランニングなどの適度な運動習慣を作りましょう。
日中に脳と体の疲れを多く溜め、疲れた勢いで夜に眠ると、質の良い眠りが得られます。
この仕組みを利用するには、起きている時間に休憩しすぎずに、疲れを夜まで溜めておくための体力も必要です。日中に適度な運動を行うことは体力を保つためにも役立ちます。
ただし、眠る直前については、心拍数が増加するような激しい運動は避けましょう。心拍数が上がるような激しい運動は交感神経系(覚醒を促す方向の自律神経)の活動を促すため、かえって目が冴えてしまいます。
長すぎる昼寝や夕方以降の仮眠・寝落ちを避ける
前述の脳と体の疲れを日中に溜め、夜に「疲れた勢いで深く眠る」という仕組みを上手く使うためには、長すぎる昼寝や夕方以降の寝落ちは避ける必要があります。
長すぎる昼寝や寝落ちは、夜へ向けてせっかく溜めていたはずの疲れを減らしてしまいます。昼寝は15時まで、30分以内にとどめて、日没後の仮眠や寝落ちはできるだけ避けるように工夫しましょう。
就寝前に電子機器類を操作しない
就寝前に、スマホやタブレットなどの電子機器を使用することはおすすめできません。寝床に入りながら、眠りたいにも関わらずテレビを視聴し続けることも同様です。
前述のように、私たちは昼間に活動し夜に眠るという、昼行性動物としての時計(体内時計)を生まれつき持っています。
この体内時計に「環境光」すなわち日光や照明の光、電子機器などが発するブルーライトは強く影響します。
夜中にまぶしい光を目にすると体内時計が乱れてしまい、「夜になったら眠る」という仕組みを上手く使えなくなり、その結果睡眠の質が落ちてしまいます。
遅くとも就寝の30分前には強い光を発する電子機器の使用を止め、間接照明などに照明を落としてリラックスして過ごすよう心がけましょう。
起床後はすぐに日光を浴びる
夜にぐっすり眠るためには、起床後に日光を浴びて体内時計をリセットすることが大切です。
人の体には、活動と休息のリズムを切り替えるための体内時計が備わっています。例えば、多くの方は「日中に活動して夜に休息する」というリズムを自然と保てていますが、これは体内時計が機能しているためです。
体内時計は25時間周期で動いているため、1日の24時間に調整するには日光を浴びて体内時計をリセットしなければなりません。体内時計をリセットして活動と休息のリズムが整うことで、夜は自然と寝付けるようになります。
睡眠の質を上げる方法【寝室環境】
食生活や生活習慣の改善と合わせて、下記のように寝室環境を整えることで、より質の高い睡眠が期待できます。
室温や湿度は季節に応じて調整する寝室は適度な暗さに調整する寝室では心地良い音楽を聴く体に合う良質な寝具を使うアロマを焚くそれぞれ詳しく解説するので、参考にしてください。
室温や湿度は季節に応じて調節する
寝室の室温は冬なら16~19℃、夏なら24~25℃、布団の中の温度は季節を問わず32~34℃が適切と考えられています。
また、湿度は50%程度を目安として調節すると良いでしょう。
寝室は適度な暗さに調整する
寝室の暗さは、豆電球くらいの明るさである、50ルクス未満が理想的と考えられています。真っ暗でも平気な場合には必ずしも照明は必要ありません。真っ暗だと眠りにくいという場合には、閉じた瞼や目に直接光があたらないように照明の位置を工夫することもおすすめです。
また、膝より下の高さにフットライトを設けたり、枕から離れた場所に間接照明を設置したりするなど工夫をしましょう。
寝室では心地良い音楽を聴く
就寝前は、心も体もリラックス状態でいることが大切です。
リラックス状態では、自律神経のうちの副交感神経系(入眠を促す方向に働く自律神経)の活動が活発になるため、寝つきが良くなったり、深い眠りを得やすくなったりする効果が期待できます。寝室で聴くなら、ヒーリングミュージックのようにゆったりとした音楽を聴くことをおすすめします。
しかし、入眠後も絶え間なく音楽が流れてしまうと、深い眠りを妨げたり、中途覚醒の原因になったりする可能性があります。
就寝前に寝室で音楽を聴く場合には、音量を小さくする、タイマーで入眠後に音楽を停止する、スリープ機能を使うなどして、静かな状態で眠ることをおすすめします。
体に合う良質な寝具を使う
枕の高さや敷布団の硬さ、マットレスの素材など、自分の体に合う寝具を使いましょう。
体に合う寝具は人によって異なるため、自分が快適に感じる寝姿勢を保てる寝具を使うことが望ましいです。寝苦しさや起床時の体の痛みなどを感じる場合には、一度寝具を見直してみるのも良いかもしれません。
また、就寝中はコップ1杯分の汗をかくといわれていることから、心地良い睡眠を促すために寝具の通気性もチェックしてください。
アロマを焚く
寝室にアロマを焚いて、リラックスできる空間を作りましょう。お湯が入ったカップに数滴垂らすなど、使用方法も簡単です。
好みの香りは人によって異なるため、植物やハーブの香りなど、いろいろなものを試して心地良く感じるものを使ってください。
また、最近は就寝時の使用に特化したアロマも販売されているため、気になる方は一度試してはいかがでしょうか。
睡眠に適した「室温・湿度」「適度な暗さ」「静かさ」「通気性や寝心地の良い寝具」「リラックス感」が良い眠りのための寝室環境として必要です。
睡眠の質が低下する主な原因
睡眠の質を上げるためには、睡眠の質が低下する原因を把握しておくことも重要です。睡眠の質が低下する代表的な原因としては、下記の6つが挙げられます。
ストレスや疲労ブルーライト睡眠環境が良くない加齢肥満睡眠リズムの乱れストレスや疲労により体が緊張状態にあるとなかなか寝付くことができず、睡眠の質が低下します。また、寝る前にスマホやパソコンの画面から発されるブルーライトを浴びると、脳が興奮状態となり、寝付けなくなるので注意が必要です。
さらに、「寝具が合っていない」「寝室の温度・湿度が適切でない」など睡眠環境が良くないことも睡眠の質を低下させる可能性があります。それに加えて、体型にも注意が必要です。肥満の方は喉を閉塞してしまう可能性があるため、睡眠の質が低下しやすいといえるでしょう。
このほか、睡眠リズムの乱れも睡眠の質の低下に繋がります。人は眠りの浅い「レム睡眠」と眠りの深い「ノンレム睡眠」を一定の周期で就寝中に繰り返しており、各睡眠が交互に入れ替わることで正しい睡眠リズムが保たれています。
しかし、何らかの原因でレム睡眠とノンレム睡眠のバランスが崩れてしまうと、眠りが浅くなってしまいます。睡眠リズムが乱れる主な原因は、体内時計の乱れやストレス、カフェインやアルコールの摂りすぎ、加齢などにあるといわれています。
睡眠の質が低下することによる影響
睡眠の質の低下は寝不足に繋がるだけでなく、心身にさまざまな悪影響を及ぼします。ここからは、睡眠の質が低下すると心身にどのような影響があるのか、以下にわけて解説します。
集中力・記憶力が低下するうつの発症リスクが上がる生活習慣病の発症リスクが上がるそれぞれ確認しましょう。
集中力・記憶力が低下する
日中に活動していた脳を休息させるには、夜間の睡眠が欠かせません。しかし、睡眠の質が低下すると脳がしっかり休息できず、思考力や集中力の低下に繋がります。
また、睡眠には心身の休息のほかに記憶を整理する役割もありますが、睡眠の質が低い場合はその役割を十分に果たすことができません。その結果、記憶力が低下する可能性があります。
うつ病の発症リスクが上がる
睡眠の質が低下して寝不足の状態が続くと、「些細なことでイライラする」「不機嫌になりやすい」など、精神的にも良くない影響が出てきます。精神的に不安定な状態が続く場合、うつ病の発症リスクが上がってしまうので注意してください。
うつ病は、無気力で憂鬱な状態が続いてしまう病気です。主な症状としては、「悲しい気分が1日中続く」「疲れやすくなる」「イライラする」「集中力の低下」などが挙げられます。
なお、不眠はうつ病を引き起こす原因の一つですが、反対にうつ病が原因で不眠の症状があらわれる場合もあります。
生活習慣病の発症リスクが上がる
睡眠の質の低下は、高血圧や糖尿病をはじめとした生活習慣病の発症リスクを高めてしまう原因にもなります。
例えば、寝不足の方は体の緊張状態が長く続いている分、血圧も高い状態が続きます。その結果、高血圧を引き起こす場合があることを知っておきましょう。
また、寝不足だとインスリンが正常に機能せず、糖尿病の発症リスクが上がってしまいます。さらに寝不足は食欲増加の原因にもなり、肥満に繋がる可能性もあると考えられています。
まとめ
睡眠の質を高めるために、今すぐできる生活習慣や寝室環境の改善のポイント、睡眠の質が低下する主な原因について説明しました。まずは気軽に取り組めることから始めて、就寝時の心地良さや起床時のすっきり感を目指してはいかがでしょうか。 睡眠の質を高めることで、より活力に満ちた日々の生活を手に入れましょう。
柳原万里子眠りと咳のクリニック虎ノ門 院長
医学博士。日本睡眠学会認定睡眠専門医。日本呼吸器学会認定呼吸器専門医・指導医。東京医科大学睡眠学寄附講座客員講師。筑波大学睡眠呼吸障害診療科・睡眠総合ケアクリニック代々木の勤務を経て、2022年11月に眠りと咳のクリニック虎ノ門(https://sleep-toranomon.com/)を開院。皆さまの眠りと健康寿命を守る、をモットーに女性ならではの細やかで丁寧な診療を行っている。